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マクシム・ゴーリキイのでんき

マクシム・ゴーリキイの伝記

宮本 百合子

幼年時代・少年時代・青年時代

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 60,543 字 · 120 页

青空文庫

主人は、ワシリー・パンコフだ」

立ち上り、ゴーリキイに幅の広い掌をさし出し片手で重そうな銀の※(「食へん+(韜-韋)」、第4水準2-92-68)パン時計を取出して云った。

「六分で済んじまった! そうだ、俺の名は――ミハイロ・アントーノフ、苗字はロマーシ。そうだ」

こうして二日後には、クラスノヴィードヴォに向ってやっと解氷したばかりのヴォルガを下った。桶や袋や箱を重く積込んだ渡船は帆をかけ、舵手席に、平静で、冷やかな眼をしたパンコフが坐り、舷には灰色の脆い早春の氷塊が濁った水に漂いながらぶつかる。北風が岸に波によせて戯れ、太陽が氷塊の青く硝子のような脇腹に当って明るく白い束のように反射しながら目眩く輝やいている。

ゴーリキイは、ロマーシと並んで帆の下の箱の上に腰かけていた。ロマーシは静に云う。

「百姓達は俺を好かない。特別――金持ち連中は! この嫌悪は君も自分で経験させられるだろう」

長い鉤竿で、羊の群を放ったように川面に浮いている氷を押しやりながら、パンコフのところに使われている髪蓬々の、坊主の古帽をかぶったククーシュキンが、二人の方へ顔を向け、有頂天に云った。