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マクシム・ゴーリキイのでんき

マクシム・ゴーリキイの伝記

宮本 百合子

幼年時代・少年時代・青年時代

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 60,543 字 · 120 页

青空文庫

「人々はあたかも何物かを惜むように、ゆっくりと、いやいやに散って行った」と。「戦争だ!」とパンコフがやって来て、こわされた煖炉を見て呻ったのは真実であった。果樹園所有者組合の組織に成功しはじめたロマーシに対する「戦争」は、もとより村の富農から挑まれた。富農に買われる酔いどれの悪党としてはあつらえむきの兵士コスチンがある。

七月半ばロマーシがカザンへ行った留守に、イゾートが殺された。ゴーリキイの心を魅していたヴォルガの漁師は、頭をうしろから破られ、ボートの底に穴をあけられて、死んだ。水に洗われているイゾートの死体を見下す崖の上に「陰鬱に、緊張して、二十人ばかりの富農が立っていた。貧農たちはまだ耕地から帰って来ていなかったのである。」その間を「狡そうで臆病な村長が、杖をふりながら動きまわり」読むような調子で、

「ああ、何という乱暴だ! おい、百姓たち、いけないねえ!」

と云っている、それらの姿は、「私の大学」中最も読者の心に深く刻み込まれる描写の一つである。

署長が村へ呼ばれた。署長は富農の家へとまった。そして、イゾートの死体の発見された夕刻、群集の中で一人の商人を殴ったククーシュキンを、穴蔵へ入れるように命じた。