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マクシム・ゴーリキイのでんき
マクシム・ゴーリキイの伝記
宮本 百合子
幼年時代・少年時代・青年時代
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 60,543 字 · 120 页
とのことで、計らずゴーリキイの全生涯の方向を暗示するまことに面白いエピソードが「幼年時代」に語られている。
或る日、「結構さん」の部屋で、「結構さん」は煙の立つ液体をいじって部屋中えがらっぽい匂いで一杯にしている。ゴーリキイはボロのしまってある箱の上に腰かけている。そして、二人は話している。
「お祖父さんは、お前はもしかしたら贋金を拵えてるんだって云ってるよ」
「お祖父さんが?……うむ、そう。――それはあの人がいい加減をいってるんだ! 金銭なんぞと云うものは、兄弟――下らんものさ」
「じゃ何でパンの代払う?」
「うむ、そうだね――パンの代は払わなくちゃならない。まったくだ……」
「そうだろう? 牛肉代だっておんなじさ」
「牛肉代だってか……」
彼は静かに、驚嘆するほど可愛く笑い、まるで猫にするように私の耳を擽って云う。
「どうしても僕はお前と口論は出来ない――お前は私を参らせるよ、兄弟。それよりも、さあ、黙ってよう……」
この小さいが逞しい人生についての問答は、後年チェホフが云った一つの言葉を思い起させる。二十四歳で、ロマンティックな作家として世に出たゴーリキイに向って、チェホフが「知っていますか? 君はロマンティストじゃない、リアリストですよ。