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マクシム・ゴーリキイのでんき

マクシム・ゴーリキイの伝記

宮本 百合子

幼年時代・少年時代・青年時代

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 60,543 字 · 120 页

青空文庫

スープをひっくりかえして火傷をする程、ゴーリキイはその靴屋の小僧という境遇、奇妙な従兄のサーシャを嫌悪し逃亡を欲したのであった。

後年ゴーリキイは、「人々の中」で、この插話の思い出を非常に色濃く、感情をこめ、ディッケンズの俤を浮ばしめるような筆致で描いている。

ゲーテが五つ六つの時、父親の鉱物標本を譜面台の上に積み重ねて祭壇をこしらえ、レンズで集めた太陽の光で香をたいて、その前に燻じ、万有の神に捧げたという話は、世界文学史の上に「黄金のように輝いた少年」ゲーテにふさわしい逸話として或る意味では伝説的な誇張をもって伝えられている。ゲーテの祭壇とサーシャの辻堂との間には殆ど一世紀近い歳月が流れている。ゴーリキイを憤怒させた哀れな中小僧サーシャの雀の聖骸の物語は欧州の科学的文化の進歩に対してロシアの社会の封建制、ギリシア正教がどのようにおくれたものであったか、そして、そのために民衆の想像力はどのような形で迷信に縛りつけられていたかということを、今日の読者である我々に驚きをもって啓示するのである。

靴屋の小僧をやめて後、ゴーリキイは製図師の見習小僧をさせられた。