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マクシム・ゴーリキイのでんき

マクシム・ゴーリキイの伝記

宮本 百合子

幼年時代・少年時代・青年時代

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 60,543 字 · 120 页

青空文庫

をひき会わせることになった。

皿洗いゴーリキイにとっての上役、太って大力な料理人スムールイが、年にあわせては背の伸びた、泣ごとを云ったことのないゴーリキイの天性に何か感じるものがあり、彼に目をかけた。午後の二時頃、暫く手がすくと、彼は号令をかけた。

「ペシコフ、来い!」

スムールイの船室に行くと、彼は小さい皮表紙の本を渡した。

「読んで見な!」

ゴーリキイはマカロニ箱の上に腰かけて声高く読む。「……左胸のあらわなるはハートの無垢なるを示し……」

すると、煙草をふかしつつ仰向に横になっているスムールイが、口を挾む。

「誰のがあらわなんだ?」

「書いてないよ」

「女の胸だろう……。チェッ、放蕩者ばっかりだ!」

最初のうち、この「ペシコフ、来い」の号令はゴーリキイを苦しめた。読んでいるうちにスムールイが眠ってしまったように見える。すると彼は音読をやめた。否応なく読ませられることから胸のわるくなるような思いのするその本を眺めまわしていると、スムールイは、嗄れ声で皿洗い小僧に催促した。

「お――、読みな」

スムールイの黒トランクの中には『ホーマー教訓集』『砲兵雑記』『セデンガリ卿の書翰集』