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マクシム・ゴーリキイのでんき

マクシム・ゴーリキイの伝記

宮本 百合子

幼年時代・少年時代・青年時代

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 60,543 字 · 120 页

青空文庫

猶も台処じゅう荒れ狂って、道具をはたき落し、製図を引裂き、叫んだ。

「態を見な! そんな真似をさせちゃ置かないんだよ。他処の者に働かせて、たった一人の血を分けた弟を追っぱらおうたって、そうは行かないんだ!」

製図師の家での仕事は、台所働き、洗濯、二人の子供の守り。ゴーリキイにとってこの雰囲気は気が遠くなるばかりに退屈である。教会へ行って「心地よい悲哀に胸を搾られるような時」また日々の細かい屈辱に心を咬まれるとき、ゴーリキイは、自分の不愉快な負担をじっと考えさえすれば、骨を折らないでも哀訴の言葉が詩の形で流れ出した。ゴーリキイが晩年に及んでも忘れなかったこの時代の「自分の祈祷文」の中に一つこういう詩があった。

神様、神様、遣り切れない

はやく大人にして下さい

このまんまでは辛抱が出来ない

首をくくっても、見遁して下さい。

見習も、うまく行かない。

鬼の人形マトリョーナ婆

吠える、吠える 狼のようだ

ほんとに生きててもはじまらない!

書物はこの境遇の中で、ゴーリキイに生きる力の源泉となったと同時に、限りない屈辱、軽侮、不安を蒙る原因となった。

製図師一家と同じ建物に住んでいる裁縫師のお洒落で怠者の妻からゴーリキイはこっそり本を借りた。