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マクシム・ゴーリキイのでんき

マクシム・ゴーリキイの伝記

宮本 百合子

幼年時代・少年時代・青年時代

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 60,543 字 · 120 页

青空文庫

それがゴーリキイの役目なのであった。

「旦那、何か如何でございます? 聖像もお値段はいろいろですが、品は上等落付いた塗になっております。御注文も頂きまして、どんな聖人方でも聖母様でもお描き申します」

これはゴーリキイにとって恥しかった。客は犬でも見るように小僧のゴーリキイを眺め、やがて隣りの店へ行ってしまう。

「逃しゃがった! いい売子だよ!」

番頭が怒った。すると、隣の店からは軟かい、甘ったるい、うっとりさせる口上が流れて来る。

「手前共は、羊皮や長靴などの商いではございません。金銀にまさる神様のお恵みを御用立てるのでございます。これには、もう値段はございません」

「畜生! うまく百姓をたらし込んでいやがる。覚えとけ! 覚えとけ!」

店へ来る百姓は皆貧乏そうで、空腹な人々のように見えた。それだのに聖詠経一冊に三ルーブリ半も払う。それはゴーリキイに奇怪な感じを抱かせた。そういう人々の無智から儲ける聖画売の商売、又、珍らしい古代の作品を売りに来る者をちょろまかして儲ける悪辣なやり口もゴーリキイの心を苦しめた。

聖画屋の小僧が本を読む。そのことをぺてん師の鑑定家の爺と番頭とがあくどく揶揄した。