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マダムさだやっこ

マダム貞奴

長谷川 時雨

「婦人画報」1920(大正9)年2~4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,999 字 · 53 页

青空文庫

舞台に立って、児島高徳に投げられた雑兵が、再び起上って打向ってくるはずなのが、投げられたなりになってしまったほど、彼らは疲労困憊の極に達していた。百弗の報酬を得てホテルに駈込んだ時には、食卓にむかった誰れもかれも、嬉し泣に、潸々としないものはなかったという。

一座はその折、女優がなかったために苦い経験をしたので、奴は見兼ねてその難儀を救った。義理から、人情から、それまで一度も舞台を踏んだことのなかった身が一足飛びに、勝れた多くの女優が、明星と輝く外国において、貧乏な旅廻りの一座のとはいえ、一躍して星女優となったのである。しかし、暫くの間はほんの田舎廻りにしか過ぎなかったが、かえってそれは、マダム貞奴としての要素をつくる準備となったといってもよいが、一行の難渋は実に甚だしかった。ボストンへ廻って来たおりには、心労の結果川上が病気に罹り、座員のうち二人まで異郷の鬼となってしまった。

「俺が全快するまでは下手なことをするな。」

川上は病いの床でそう言続けていたが、生活のためには言附けも背かなければならなかった。それに為すこともなく日を過しているのでは、悲境に、魂を食われてしまったような座員の団結も頼まれず、座員の元気を鼓舞するには劇場へ出演するに限ると、川上にかくれて貞奴が一座を引連れて出た。