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メメント モリ

メメント モリ

田辺 元

「信濃教育 第八五八号」1958(昭和33)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,397 字 · 19 页

青空文庫

このように生死が自然現象の如く客観的事件として存在するものでなく、あくまで個々の実存的主体に対して自覚せられる媒介事態であるのみならず、生と死とは、前者の終末限界として後者が前者から予想せられるところの事象であるに止まらず、自ら進んで生の執着を抛ち棄てれば、かえって死が生に復活せしめられ、愛に依って結ばれる実存間において、それが実存協同として自覚せられ、死せる先進者の慈悲は生ける後者にはたらくことが実証せられると同時に、その感謝報恩のため、更に自己の後進者に自らの悟得せる真実を回施し、その後進者をして彼に固有なる真実を悟らしめる結果は、疑もなく死復活せる生を本質的に喜あるものたらしめる筈である。もし果して「死の哲学」の真実がかかるものであるとするならば、「生の哲学」の窮境を打開する路が、ここに見出だされることは否定できないであろう。

すでにクリスト教は、ギリシヤ人に固有なる調和的生本位の科学的世界観を超出して、旧約のヘブライ宗教から伝えられた人類の堕罪説と、それに対する神罰としての死の観念とを、教の中心に置き、その死を免れる途として、神の怒をなだめてその赦しを乞うために、罪を悔改め、自己を犠牲に献げて神の愛と隣人愛とを実践する新約の立場に進み、死復活を説いたのである。