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モノグラム
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江戸川 乱歩
「新小説」春陽堂、1926(大正15)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,034 字 · 22 页
一寸した手抜かりで、例の懐中鏡とすみ子の写真とを、私のヒステリィの家内に見つかって了った訳なんです。それを知った時には、困ったことになった。これで又四五日の間は、烈しい発作の御守をしなければなるまいと、私はいっそ覚悟を極めて了った程でした。ところが、意外なことには、その二品を前にして、私の破れ机の所に坐った家内は、一向ヒステリィを起す様子がないのです。そればかりか、ニコニコしながらこんなことを云うではありませんか。
「まあ、北川さんの写真じゃありませんか。どうしてこんなものがあったの。それに、まあ珍しい懐中鏡、随分古いものですわね。私の行李から出て来たのですか、もうずっと前になくして了ったとばかり思っていましたのに」
それを聞きますと、私は何だか変だなとは思いましたが、まだよく分らないで、ぼんやりして、そこにつっ立って居りました。家内はさも懐し相に懐中鏡を弄びながら、
「あたしが、この組合せ文字の刺繍を置いたのは、学校に通っている頃ですわ、あなた、これが分って」そういって、三十歳の家内が妙に色っぽくなるのですよ「一造のIでしょう。園のSでしょう。まだあなたと一緒にならない前、お互の心が変らないおまじないに、これ縫ったのですわ。