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ヤトラカン・サミはかせのいす

ヤトラカン・サミ博士の椅子

牧 逸馬

「新青年」博文館、1929(昭和4)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,010 字 · 26 页

青空文庫

1

マカラム街の珈琲店キャフェ・バンダラウェラは、雨期の赤土のような土耳古珈琲のほかに、ジャマイカ産の生薑水をも売っていた。それには、タミル族の女給の唾と、適度の蠅の卵とが浮かんでいた。タミル人は、この錫蘭島の奥地からマドラスの北部へかけて、彼らの熱愛する古式な長袖着と、真鍮製の水甕と、金いろの腕輪とを大事にして、まるで瘤牛のように山野に群棲していた。それは「古代からそのままに残された人種」の一つの代表といってよかった。彼らは、エルカラとコラヴァとカスワとイルラの四つの姓閥からできあがっていた。そして、そのどれもが、何よりも祖先と女の子を尊重した。祖先は、タミル族に、じつは彼らが、あの栄誉ある古王国ドラヴィデアの分流であることを示してくれるのに役立ったから、彼らはその祭日を忘れずに、かならずマハウェリ・ガンガの河へ出かけて行って、めいめいの象といっしょに水掃礼を受けた。が、女の子を歓迎したのは、そういう民族的に根拠のある感情からではなかった。女は、彼らにとって、家畜の一種としての財産だったからだ。女の子が生まれると、彼らはそれを、風や雑草の悪霊から保護して育てて、大きくなるのを待ってコロンボの町へ売りに出た。