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ヤトラカン・サミはかせのいす

ヤトラカン・サミ博士の椅子

牧 逸馬

「新青年」博文館、1929(昭和4)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,010 字 · 26 页

青空文庫

博士は、白い旅客に話しかける時のように、こっちからこの日本人に言語を注射して、その反応を見ることによって試験してやろうと決意した。

日本人は、松葉のように細い、鈍い白眼で、博士と博士の椅子を凝視していた。それは、何ごとにかけても十分理解力のあることを示している、妙に誇りの高い眼だった。博士はふと、まるで挑戦されているような不快さを感じて、急に、その、腰かけている大型椅子の左右の肘掛のところで、二本の鉄棒を動かしはじめた。椅子の下で、小さな車が、軋んで鳴った。ヤトラカン・サミ博士は、歩道の上を、椅子ごとすうっと日本人のそばへ流れ寄った。

ヤトラカン・サミ博士の椅子は、あの、欧州戦争に参加した国々の公園などで、時おり、足の悪い、あるいは全然脚のない廃兵が、嬉々として乗りまわしているのを見かけることのある、一種の locomotive chair だった。椅子の脚に、前後左右に回転する小さな車輪がついていて、そして、ちょうどその安楽椅子の両腕の位置に、すこし前寄りに、まるで自動車のブレーキのような棒が二本下から生えている。で、座者は櫓を漕ぐように交互にこの棒を動かして、自在にその椅子車を運転することができるのだった。