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ヤトラカン・サミはかせのいす
ヤトラカン・サミ博士の椅子
牧 逸馬
「新青年」博文館、1929(昭和4)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,010 字 · 26 页
で、これに近づかなければならない。――
ヤトラカン・サミ博士の耳へは、草木と、風雨と、鳥獣と、虫魚と、山河とが、四六時ちゅう邪魔神の秘密通信を自然の呼吸として吹き込んでいる。
こんなぐあいに。
印度の大地も、婆羅門の社祠も、学者たちの墓跡も、タミル族の民族精神も、女給に出ているその娘どもも、彼女らの美しい yoni も、いまはすっかり、じつにすっかり英吉利旦那の「文明履物」によって、見るも無残に踏みにじられていることは、何とあっても吠陀のよろこびたまわぬところだ。ことに、豪快倨傲の破壊神邪魔にとっては、一日も耐えられない汚辱に相違ない――が、この旦那方は銀を持っている。連隊を教練している。そして、十字架と病院と学校事業と社会施設とで、交換に、同胞から労力と資源と、それから Thank you を奪り上げているのだ。もっとも、いつまでもこうではあるまい。しかし、いまはまだ、すこし早いのだ。カルカッタの若者マハトマ・ガンジも同じ意見である。まだ早い。まだ、すこうし早い。だから、それまでは静かに、しずかに動き回って、手相術と、白人の女への猥言と、この椅子車と――それはいいが、ヤトラカン・サミ博士の一生のうちに、博士が、「ついにその椅子を蹴って踊り出る日」