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レモンのはなのさくおかへ
レモンの花の咲く丘へ
国枝 史郎
「レモンの花の咲く丘へ」東京堂書店、1910(明治43)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 71,016 字 · 142 页
そして花弁に溜った露の滴を、百合の花のような掌に受けて、それで金色の髪をとかした。金色の髪は、耳朶を掠めて頬を流れ、丸い玉のような肩に崩れ落ちた。それを左の手でそっと梳き、また右の手でゆっくりと梳いた。梳く度に、薔薇色の日が金髪に映って、虹のような光がそこから湧いた。(間)梳き終わるとそのまま金髪を背に垂れて、傍の小石へ腰を掛け、この場合にも抱えて来た、バイオリンを弾き出すのだ。
従者 何の曲をお弾きなされました。
領主 「死に行く人魚」の歌。
従者 その歌は不吉の歌ではござりませぬか。
領主 そうだ。
従者 何故、そんな不吉の歌をお化粧する間もお歌いなされたのでござりましょう。
領主 その頃は解らなかったが、今になってその意味が少しは解って来たように思われる。あの不幸の女は、自分で歌って自分で泣き、悲しい歌に同情して、それで心を慰めていたらしい。
従者 何故でござりましょう。お殿様と云う立派な情人がおありなさること故、そのようなことをして、自分の心を慰めずとも、よかりそうなものではござりませぬか。
領主 いやいや、彼女は不思議な神経を持っていて、自分の運命の行方を、その時分から、知っていた。