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レモンのはなのさくおかへ
レモンの花の咲く丘へ
国枝 史郎
「レモンの花の咲く丘へ」東京堂書店、1910(明治43)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 71,016 字 · 142 页
真珠に盛りし鴉片さえ
女子の恋はうつせまじ。
(歌切れると共に女子は疲れ果ててFなる魔法使いの肩にすがる。魔法使いは女子を片手に介えて海を眺めて彳む。突如高殿よりバイオリンの音聞こゆ。調は短ホ調、歌は「死に行く人魚」の歌)
幻の美しければ
海の乙女の
あわれ人魚は
舟を追う。
波を分けて舟を追う。
月は青褪めぬ、
屍に似たる水の色。
(歌と共に高殿の窓開らけて、公子の姿現わる)
Fなる魔法使い (公子の姿を眺め、歌に耳を澄まし)あの歌は以前どこかで散々聞いた歌だ。奈落に沈む悲しげの音が短ホ調へしみこんでいる。あれを歌う男は生きてはいまい。あれを聞く女も死ぬだろう。(間)あれは死の歌だ。(女子もその歌に耳を澄ませて、高殿を見上ぐ。高殿の上にて公子、罌粟畑を見下して弾き且つ歌う)
赤き帆は
追えども遠く離れ行く(ふっと切れ、直につづく)
船の中なる美しき影。
(女子はFなる魔法使いより離れて、高殿の方に歩み寄る、Fなる魔法使いはそれを凝視し)
Fなる魔法使い あの歌の力強い響きは巨人のようだ。眼に見えぬ大いなる影が、あの歌の陰にひそんでいて、歌う彼を助けている。それがあの歌を助けている。