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ウィタ・セクスアリス
ヰタ・セクスアリス
「昴」1909(明治42)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 58,941 字 · 119 页
それで燧袋のような烟草入から雲井を撮み出して呑んでいる。酒も飲まない。口も利かない。
しかしその頃の講武所芸者は、随分変な書生を相手にし附けていたのだから、格別驚きもしない。むやみに大声を出して、霽波と一しょに騒いでいる。
十一時半頃になった。女中がお車が揃いましたと云って来た。揃いましたは変だとは思ったが、左程気にも留めなかった。霽波が先に立って門口に出て車に乗る。安斎も僕も乗る。僕は「大千住の先の小菅だよ」と車夫に言ったが、車夫は返詞をせずに梶棒を上げた。
霽波の車が真先に駈け出す。次が安斎、殿が僕と、三台の車が続いて、飛ぶように駈ける。掛声をして、提灯を振り廻して、御成道を上野へ向けて行く。両側の店は大抵戸を締めている。食物店の行燈や、蝋燭なんぞを売る家の板戸に嵌めた小障子に移る明りが、おりおり見えて、それが逆に後へ走るかと思うようだ。往来の人は少い。偶々出逢う人は、言い合せたように、僕等の車を振り向いて見る。
車はどこへ行くのだろう。僕は自分の経験はないが、車夫がどこへ行くとき、こんな風に走るかということは知っている。
広小路を過ぎて、仲町へ曲る角の辺に来たとき、安斎が車の上から後に振り向いて、「逃げましょう」