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ウィタ・セクスアリス

ヰタ・セクスアリス

森 鴎外

「昴」1909(明治42)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 58,941 字 · 119 页

青空文庫

僕は用心している。寄宿舎は長屋造であるから出口は両方にある。敵が右から来れば左へ逃げる。左から来れば右へ逃げる。それでも心配なので、あるとき向島の内から、短刀を一本そっと持って来て、懐に隠していた。

二月頃に久しく天気が続いた。毎日学課が済むと、埴生と運動場へ出て遊ぶ。外の生徒は二人が盛砂の中で角力を取るのを見て、まるで狗児のようだと云って冷かしていた。やあ、黒と白が喧嘩をしている、白、負けるななどと声を掛けて通るものもあった。埴生と僕とはこんな風にして遊んでも、別に話はしない。僕は貸本をむやみに読んで、子供らしい空想の世界に住している。埴生は教場の外ではじっとしていない性なので、本なぞは読まない。一しょに遊ぶと云えば、角力を取る位のものであった。

或る寒さの強い日の事である。僕は埴生と運動場へ行って、今日は寒いから駆競にしようというので、駈競をして遊んで帰って見ると、鰐口の処へ、同級の生徒が二三人寄って相談をしている。間食の相談である。大抵間食は弾豆か焼芋で、生徒は醵金をして、小使に二銭の使賃を遣って、買って来させるのである。今日はいつもと違って、大いに奢るというので、盲汁ということをするのだそうだ。