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ウィタ・セクスアリス

ヰタ・セクスアリス

森 鴎外

「昴」1909(明治42)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 58,941 字 · 119 页

青空文庫

それが僕のような少年を揶揄う常套語であったのだ。僕はそれを試みた。しかし人に聞いたように愉快でない。そして跡で非道く頭痛がする。強いてかの可笑しな画なんぞを想像して、反復して見た。今度は頭痛ばかりではなくて、動悸がする。僕はそれからはめったにそんな事をしたことはない。つまり僕は内から促されてしたのでなくて、入智慧でしたので、附焼刃でしたのだから、だめであったと見える。

或る日曜日に僕は向島の内へ帰った。帰って見ると、お父様がいつもと違って烟たい顔をして黙っておられる。お母様も心配らしい様子で、僕に優しい詞を掛けたいのを控えてお出なさるようだ。元気好く帰って行った僕は拍子抜がして、暫く二親の顔を見競べていた。

お父様が、烟草を呑んでいた烟管で、常よりひどく灰吹をはたいて、口を切られた。お父様は巻烟草は上らない。いつも雲井という烟草を上るに極まっていたのである。さてお話を聞いて見ると、僕の罪悪とも思わなかった罪悪が、お父様の耳に入ったのである。それはかの手に関係する事ではない。埴生との交際の事である。

同じ学校の上の級に沼波というのがあった。僕は顔も知らないが、先方では僕と埴生との狗児のように遊んでいるのを可笑がって見ていたものと見える。