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ひとつのめばえ
一つの芽生
宮本 百合子
「新日本」1918(大正7)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,627 字 · 29 页
絶対的に拒絶したいとさえ思っていた私も、今は従わなければならない偉いなる力を感じるのである。
私が、出来得るかぎり正しい、客観的な位置に心を置いて静かに考えるとき、自分の上にも、他人の上にも、よしまたそれがいかほど自分の愛している者達の上にでも肯定しなければならない力を感じる。
生の光栄のため、我々お互同志の深い愛のために、死は決して否定されないのを思うとき、ただ心臓が鼓動し、呼吸が通っているのみで、彼は生きているという一人の者の上に、私は生よりも死を選ぼうとする自分の心を思うとき、そこには僅かの感傷的空想も、甘えた涙も許されない。
精神的にも肉体的にも生きる可能の乏しい者として死ななければならない彼のいることも、その死をいかほどか歎くだろう父母のあることも、皆、ごまかすことも、逃げ出すこともできない事実である。
人間らしい辛抱強さと、勇気と愛とをもってジイッと持ち堪(こた)え、突き進んで行かなければならない現実の一事件である。
彼に死なれるのは辛い。悲しい。
けれども、今の自分は、もう三年前に五つの妹を失ったとき歎いたように、「悲しめる心」のうちにとじ籠って、かなり自分の悲しみに甘えながら歌を書いてはいられない。