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ひとつのめばえ

一つの芽生

宮本 百合子

「新日本」1918(大正7)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,627 字 · 29 页

青空文庫

けれども、彼がそんな意識をもって云ったのでないことは明らかである。

けれども……私はこの一句から先へ進むことはできなかった。何かあるに相異ない、何があるだろう。自分は心に浮んで来るいろいろなことを、あれでもないこれでもないと選(よ)って歩いた。

どれもこれもそうらしいのはない。単に偶然発された言葉と解釈するほかないのだろうか。もう少しで、この一句を遺して行こうとしたとき、フト思いついたことがある。けれどもそれはあまり恐ろしいことである。私は彼がいつか一種の輪廻(りんね)説のようなことを信じていると云ったのを思い出したのである。

そのとき彼は――多分去年中のことであった――若し自分がこの家でないどこかの家に生れて、食べる物もなければ、着るものもなく、何かといってはすぐ擲つような親の子になったら、どんなに情けなかったろう。

そして、死んでから生れ換るとき、若し自分がいつもいつも可哀そうだと思っている宿無しの小っぽけな犬や、鞭でピシピシたたかれながら、何にも云えずに荷を挽(ひ)く馬などになったらどんなに苦しいだろう。

「いくら何か云おうと思っても口もきけないんだものなあ、僕そう考えると全くこわい。