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せんきゅうひゃくにじゅうくねんいちがつ――にがつ
一九二九年一月――二月
宮本 百合子
「宮本百合子全集 第十八巻」新日本出版社、1981(昭和56)年5月30日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,457 字 · 23 页
つめたい空気が顔をうった。三和土の段を三つ下り、三和土の床を歩いて三和土の湯槽のように大きなものの中に氷がおがくずに埋ってあった。三和土の床も、三和土の湯槽のようなものも、みんな湿って居た。ぬれて電燈を小さくてりかえした。私は一面の夜と、無人な空気と、湿りを巨大に厳粛に自分の小さい存在の周囲に感じた。
私はひとりでにいそぐ。いそいで氷を破り、氷を破る音が濡れた三和土の床や天井に大きく反響して廊下へ響くのをきく。この静止のなかに動くのは自分だけだというのは異様な感じであった。……――この時廊下をいそいで歩く二三人の跫音がした。緊張し 眠気のさめた跫音だ。自分はおや誰か死んだなと思った。
翌朝同室患者のファイエルマンが彼女の一日分五十瓦のパンの端から一切をきり乍ら
――あなた我々の隣の病人の呻るのをききましたか
と云った。
――一昨夜の晩は聴えた。でも昨夜は呻らなかったようです
――一昨日は僧侶がよばれたんですよ
最後の塗油式に呼んだということであろう。
――そんなにわるいの
――ふうむ、そして昨夜死にました
あの跫音はそれであったか。変な心持がした。
彼女は
――ここはまだよい。