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いっこく

一刻

宮本 百合子

「談論」1947(昭和22)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 1,103 字 · 3 页

青空文庫

制限時間はすぎているのに、電車が来なくて有楽町の駅の群集は、刻々つまって来た。

「もうそろそろ運動はじめたかい」

人に押されて、ゆるく体をまわすようにしながら、蔵原さんが訊いた。

「これからだ」

江口さんは栃木県で立候補した。新しくなろうとして熱心な村の人々にとって、根気よい産婆役をしているのであった。

「しかしね、モラトリアムでいくらかいいかもしれないよ。――この間うちの相場は、二百円だった」

「一票が、かい?」

「ああ。百円じゃいやだというそうだ。東京じゃ米で買う奴が多いらしいね」

そこへ、一台電車が入って来た。プラットフォームの群集は、例のとおり、止りかかる電車目がけて殺到した。すると、高く駅員の声が響いた。

「この電車は、南方より復員の貸切電車であります。どなたも、おのりにならないように願います」

丁度目の前でドアが開いて、七分通り満員の車内の一部が見えた。リュックをかついで、カーキの服を着て、ぼんやりした表情の人々の顔が、こちらを向いている。ああこれが、有楽町か、という心もちの動きの出ている眼もないし、ひどい人だ、と思って投げられている視線もない。