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ひとつぼかん
一坪館
海野 十三
未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,902 字 · 56 页
ヘーイ少佐はそのころアメリカへ連絡にかえって不在だった。
「どうしたもんだろうね、犬山さん」
源一は、相談相手といって、ほかにないから犬山画伯に相談をかけた。
「しんぱいすることはないよ。そのうちに、いい運がむいてくるよ」
画伯はなぐさめる顔でいった。しかし画伯は何を建てるにしても、まず先立つものは金と資材とであることを思い、源一も自分も、そういう方にはあまりえんがない人間だとさびしく思った。
それから四五日のちのこと、店の前に一人の老婦人が立って、しきりに中をのぞきこんでいたが、そのとき源一は地下室からあがって来て、ひょいとその老婦人と顔を見あわせた。源一は、あっとおどろいた。
「あっ、矢口家のおかみさんじゃありませんか。ぼく、源一ですよ」
「まあ、まあ……」老婦人もおどろきに目をまるくして、
「やっぱり、そうだったのね。源どん、お前さん、ほんとうに、ここに店を出しておくれだったのね」と、うれし涙であった。
とびだした名案
源一がうれし涙でむかえた老婦人こそ、この一坪の店を源一にゆずって東京を去った矢口家のおかみさんだった。焼けるまでは、おかみさんは、ここに煙草店をひらいていた。