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ひとつぼかん

一坪館

海野 十三

未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,902 字 · 56 页

青空文庫

あべこべに、源一の方が誰かによびかけられた。源一はびっくりして顔をあげた。すると源一をよんだ相手は、銀座の本通りに立って、こっちを見ているのだった。さしこのはっぴに、さしこの頭巾、下は巻きゲートルに靴をはいている。頭巾から出しているのは、二つの小さな目だけ、若い人か、老人か、どっちかわからない。しかし声をきくと老人のようだった。

「おい、坊や。ここに立っているのは、七丁目の交番かい」

江戸から明治にかけてこのような消防のすがたが、はやったことを、源一は何かの本で読んだことがある。

「そうです。七丁目の交番です」

「うへえ、やっぱりそうか。もうすこしで戸まどいするところだった。なんしろこうきれいに焼けちまっちゃ見当がつきやしない。じゃあ、アバよ」

と、行きかけるのをあわててとめた。

「おう、待ってくれよ、おじさん」

「なんだい、待てというのは……」

「ちょっとおじさんの意見をきかしてもらいたいんだ。ぼくはね、これからここに店を開くんだけれど、何の店を始めたらいいだろうね」

「なんだって」

相手は本通りから源一の立っているところまで歩いてきた。そして頭巾をぬいで背中へまわした。