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いったとはは
一太と母
宮本 百合子
「女性」1927(昭和2)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,507 字 · 21 页
片方は黄色の風呂敷で、片方は赤い更紗であった。黄色い方には一つ八銭の玉子だけ、赤い方には一つ六銭の玉子が籾の中に入っていた。やつれた顔じゅうにただ二つの眼と蒼黒い大きな口だけしかないようなツメオは息子の上に屈んで、
「いいかい。間違えたり、落してわったりしちゃいけないよ」
と囁き、一太の背中を門の中に押してやった。母親がそれは小さい声で本気に「さ、いいかい」と云うので、一太は少しこわいようになった。そして、一生懸命な心持で見知らぬ門を入って行った。
暫くして一太が出て来ると、母親が遠くの電信柱のところに立っていて、おいでおいでをした。彼女は勇気がなかったから、自分で玉子を売らず、いつも外で幼い一太が稼いで来るのを待っているのであった。母親を見ると、特別、売れたときなど一太は思わずそっちへ駈け出しそうになった。惶てて遠くから母親が盛に顔を顰め手や首を振って止めた。玉子を持ったら忘れても一太は駈けてはならぬ。
「おっかちゃん! 十も買ってくれたよ」
筒抜けに上機嫌な一太の声を、母親はぎょっとしたようなひそひそ声で、
「そうかい、そりゃお手柄だ」
といそいで揉み消した。