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いったとはは

一太と母

宮本 百合子

「女性」1927(昭和2)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,507 字 · 21 页

青空文庫

そこでは、桜の葉が散っている門内の小砂利の上でお附の女中を対手に水兵服の児が三輪車を乗り廻していた。

一太は早く大きくなって、玉子も独りで売りに出たいと思った。母親が待っていると、一太は行った先で遊んでいることも出来なかったし、道草も食えなかった。萬世軒の表にいる猿もおちおち見物していられなかった。それに何だか窮屈だ。――母親のツメオが随分永く歩く間余り口をきいてくれず、笑いもしなかったからだ。――全く、母親は笑わない……。仕方がないから、一太は道傍の石ころを蹴飛ばしては追いかけて歩いたが、どうかしてそれが玉子の売れないのとぶつかると、一太は黙って歩いているのが淋しいような心配な気になった。

「ね、おっかちゃん」

「何だよ、ねえねえってさっきから、うるさい!」

踏切りのこっちへ来ると、一太の朋輩や、米屋の善どんなどがいた。一太一人で納豆籠をぶらくって通ると、誰かが、

「一ちゃんおいで」

と呼んだ。米屋の善どんは眉毛も着物も真白鼠で、働きながら、

「今かえんのかい?」

と訊いた。

「うん」

一太は立ちどまって、善さんが南京袋をかついで来ては荷車に積むのや、モーターで動いている杵を眺めた。