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いっぽんのはな

一本の花

宮本 百合子

「改造」1927(昭和2)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,709 字 · 55 页

青空文庫

「本当に。――大丈夫でなくたって、大丈夫と思っちゃった」

「何のことさ、え? 何のこと?」

「いいのよ、安心して」

「着いたら電報打つけど、若し何かあったら」

何心なく云いかけ、驚いて止めた拍子に、幸子は赤い顔をし、口に当てた掌のかげで舌を出した。朝子は、

「莫迦ね」

薄笑いしたが、段々おかしく自分もしまいに声を出して笑った。幸子は習慣的に、大平に頼めと云いかけたのであった。

列車が動き出す、万歳ァーイという声がプラットフォームの二箇所ばかりで起った。

カーブにつれて列車が蜒り、幸子の振る手が見えなくなってから、朝子は歩き出した。すると、人ごみの中から、

「――しばらく」

太いフェルト草履の鼻緒をそろえて、挨拶した者があった。

「まあ――」

朝子と、同級の中では親しい部の富貴子であった。

「来てらしたの? この汽車?」

富貴子は、ずば抜けて背の高い肩の間へ、首をちぢめるような恰好をした。

「母の名代を仰せ付かっちゃったの」

車寄せへ出ると、

「あなた、真直ぐおかえり?」

洒落た紙入れを持ったクリーム色の手套のかげで、時間を見ながら富貴子が訊いた。

「――何だかこのまんまお別れするの厭ね、……銀座抜けましょうか」