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いっぽんのはな
一本の花
宮本 百合子
「改造」1927(昭和2)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,709 字 · 55 页
電燈を消そうとし、思いついて、旅行案内をとりに行った。幸子の汽車が、静岡と浜松の間を走っている刻限であった。
翌日は晴れやかな日で、独り食事などする静かな寂しさも、透明な秋日和の中では、いい心持であった。
朝子は午後から、亀戸の方へ出かけた。市の宿泊所に用があった。かえりに彼女はセットルメントへ寄って見た。新たに児童図書館が設けられ、赤児を結いつけおんぶした近所の子供が、各年級に分れた卓子を囲んで、絵本を見たり雑誌を読んだりしていた。托児所の久保という女が朝子を以前から知っていて、案内をしてくれた。彼女はリューマチスで、二階の私室で休んでいた。髪をぐるぐる巻きにして、セルの上へ袷羽織を着た久保は、やせた肩越しに、朝子を振り返り、
「私の方も見て下さい、そりゃ私、骨を折っているんですよ」
渡廊下の踏板を越えながら云った。
「みんな若い人達ばかりで、ただおとなしく四時まで遊ばしときさえすればいいと思ってるんだから。――そんな人の方が、またお気に入るんですからね。私喧嘩したってこうと思うことはやって貰うんです。いやな女だと思っているだろうけど、いざ子供を動かすとなると、どうしたって、そりゃ、私でなければならないことが起って来るんですからね」