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いちまいのきっぷ
一枚の切符
江戸川 乱歩
「新青年」博文館、1923(大正12)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,503 字 · 27 页
ちょっとドラマチィックな事件には相違ないからな」
左右田はこう語り終って、前のコップをグイと乾した。
「現場を見た興味があったとはいえ、よくそれ丈け詳しく調べたね。だがその黒田という刑事は、警察官にも似合わない頭のいい男だね」
「マア、一種の小説家だね」
「エ、アア左様だ。絶好の小説家だ。寧ろ小説以上の興味を創作したといってもいい」
「だが、僕は、彼は小説家以上の何者でもないと思うね」
片手をチョッキのポケットに入れて、何か探りながら、左右田が皮肉な微笑を浮べた。
「それはどういう意味だ」
松村は煙草の煙の中から、眼をしばたたいて反問した。
「黒田氏は小説家であるかも知れないが探偵ではないという事さ」
「どうして?」
松村はドキッとした様であった。何かすばらしい、あの得べからざる事を予期する様に、彼は相手の眼を見た。左右田はチョッキのポケットから、小さい紙片を取出してテーブルの上に置いた。そして、
「これは何だか知ってるかい」
と云った。
「それがどうしたと云うのだ。PL商会の受取切符じゃないか」
松村は妙な顔をして聞き返した。
「そうさ。三等急行列車の貸し枕の代金四十銭也の受取切符だ。