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いちまいのきっぷ
一枚の切符
江戸川 乱歩
「新青年」博文館、1923(大正12)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,503 字 · 27 页
この点について誤解のなからんことを望む。
さて、何の理由によって、私は博士の無罪を信ずるか、一言以て尽せば、司法当局が、刑事黒田清太郎氏の調査を通して、推定した所の博士の犯罪なるものが、余りに大人気ないことである。余りに幼稚なるお芝居気に富んでいる事である。彼の寸毫の微と雖も逃すことのない透徹その比を見ざる大学者の頭脳と、此度の所謂犯罪事実なるものとを比較する時吾人は如何の感があるか。その思想の余りに隔絶せることに、寧ろ苦笑を禁じ得ないではないか。其筋の人々は、博士の頭脳が拙き靴跡を残し、偽筆の手習反故を残し、毒薬のコップをさえ残して、黒田某氏に名を成さしめる程耄碌したというのか。さては又、あの博学なる嫌疑者が、毒薬の死体に痕跡を留むべきことを予知し得なかったとでもいうのか、私は何等証拠を提出するまでもなく、博士は当然無罪なるべきものと信ずる。だからといって、私は以上の単なる推測を以て、この陳述を思い立つ程、無謀者ではないのである。
刑事、黒田清太郎氏は、今赫々の武勲に、光り輝いている。世人は同氏を和製のシャーロック・ホームズとまで讃嘆している。