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いちまいのきっぷ

一枚の切符

江戸川 乱歩

「新青年」博文館、1923(大正12)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,503 字 · 27 页

青空文庫

この三つの証拠品を以って、この男が主張するには、博士夫人は自殺したんではなくて、殺されたんだ。そしてその殺人者は、なんと、夫富田博士その人である。とこういうんだ。どうだい、なかなか面白いだろう」

話手の青年は、一寸ズル相な微笑を浮べて相手の顔を見た。そして、内ポケットから銀色のシガレットケースを取出し、如何にも手際よく一本のオックスフォードをつまみ上げて、パチンと音をさせて蓋を閉じた。

「そうだ」聞手の青年は、話手の為に燐寸を擦ってやり乍ら「そこまでは、僕も大体知っているんだ。だが、その黒田という男が、どういう方法で殺人者を発見したのか、そいつが聞きものだね」

「好個の探偵小説だね。で、黒田氏が説明して云うことには、他殺ではないかという疑を起したのは、死人の傷口の出血が案外少いといって警察医が小首を傾けた。その極めて些細な点からであった。去る大正何年何月幾日の――町の老母殺しに、その例があるというんだ。疑い得る丈け疑え、そして、その疑いの一つ一つを出来る丈け綿密に探索せよ、というのが探偵術のモットーだそうだが、この刑事もその骨を呑込んで居ったと見えて、一つの仮定を組立てて見たのだ。