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ひとつぶのあわ

一粒の粟

宮本 百合子

「解放」1920(大正9)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,083 字 · 7 页

青空文庫

卿はどうして其那に水が好きなのか。

如何うして其那に笑うのだろう、卿等は――

小粒な雨が、眠った湖面に玻璃玉の点ポツポツを描いても、アッハハハハと卿達は、大きな声で笑うだろう。

暗紅い稲妻が、ブラックマウンテンに燃立っても、水に跳び込む卿等は同じ筏から。

ジャボン……ジャボン……

巨大な黒坊、笑う黒坊、育った赤坊の黒坊――。

午後八時頃。湧こうとする濃闇の、其の一時前の仄明り。音楽の賑う旅舎の樹蔭の低い石垣。その角から三つ目の石の上に、まあ沢山。群れて笑いさざめく彼等、男の声、女の声。目の前を走る自動車が、四辺かまわずムッと跳上げる砂埃――其でも彼等は嬉々と笑う。

腕を組んで漫歩する紳士が、枝に止まった小鳥のように目白押しする彼等の、その真正面で、ペッと地面に不作法な唾を吐く――

其でも彼等は体を揺って、ハハと笑う、ハハと笑う……

皆が侮る黒坊、泣いても笑っても、白くは成れない黒坊……南の国で卿の仲間が火で燃き殺される、その煙、その臭い――。

皆が侮る黒坊、皆が厭がる黒坊、誰が卿を黒くした? 何が卿を笑わせる?

何がお前を笑わせる? 黒坊――。