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おもと

万年青

矢田 津世子

「婦人日本」毎日新聞社、1942(昭和17)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,043 字 · 13 页

青空文庫

「おばあさま。きょうは、お好きな餅菓子を見つけてまいりましたのよ。」

こう言って隠居を喜ばせる嫁がいるかと思うと、隠居を茶室へ招じ入れてお茶を点てて喜ばせる嫁もいる。

「すまんことだね。隠居さんは日本中での仕合せ者ですよ。」

心からうれしそうに、隠居は満足気だった。自分のことを、こうして「隠居さん」と言い慣わしていたが、気丈そうに見える年寄りも、何かそんなことでユーモラスな愛すべき人に見えるのだった。

「おばあさまが喜んで下さることだったら、何んでもいたしますわ。あさってあたり、お懐石でもしようかと、わたし、こっそり計画してますのよ。」

二ばん目の孫嫁はお茶に熱心だった。時折り、年寄りを主客にして懐石料理を楽しませては、自分だけという取り入り方で、ほかの嫁たちに負けまいとつとめるのだった。

誰でもが隠居の寵を得ようと力めていた。料理の上手な者は料理で、お針の上手な者はお針で、それから別に取り柄のない者は隠居の足腰をもんでやったり使いを足したり、厠にまでついて行っていろいろと優しく心遣いをみせた。

「隠居さんは、ほんとうに仕合せだねえ。」

人に会いさえすれば、隠居はこうわが身の幸福を語らずにはいられなかった。