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さんにんのそうせいじ
三人の双生児
海野 十三
「新青年」1934(昭和9)年9、10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 43,806 字 · 87 页
でも奥さまは、もっと何か地方的な特色のあることを御存知の筈と存じますわ。お小さいとき、よくお気のつくものとしては物売りの声、お祭りなどの行事、その辺のごく狭い地区の名、幼な馴染の名などでございますが、一つ思い出していただきましょうか」
そこで妾は変な諮問を受けることとなった。
「物売の声で、なにか憶えていらっしゃるものはございません?」
「さあ、――」
と妾はこの意外な問いにすくなからず驚いた。そして長い間考えていたが、やっと一つ思い出すことが出来た。
「そうです、魚売りのおばさんの呼び声を思いだしましたわ。こうなんです――いなや鰈や竹輪はおいんなはらーンで、という」
「おいんなはらーンででございますか。たいへん結構なお手懸りでございますわ。ではもう一つ、お祭の名称など、いかがでございます」
「さあ、――明神さまのお祭りだとか、それから太い竹を輪切りにしてくれるサギッチョウなどというものがありました」
「ああ左義長のことですネ。それも結構です。それからこの辺の村の名とか町の名とか憶えていらっしゃいません」
「近所の地名ですか何ですか。アタケといっていましたわ」