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さんにんのそうせいじ
三人の双生児
海野 十三
「新青年」1934(昭和9)年9、10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 43,806 字 · 87 页
妾は、その怪紳士が寄るかもしれないと云い残して置いた九月を迎えるのが、急に恐ろしく感ぜられてきた。
7
八月も末になって、暑さが大分和らいで来た。
或る日妾は、なんとなく家にいるのが堪えられなくなってブラリと邸を出た。久し振りの散歩につい興に乗って、思わずも歩を搬びすぎ、いつの間にか隣村の鎮守の杜の傍に出た。そしてそのとき杜蔭に思いがけなくも、曲馬団の小屋が掛っているのを見て、たいへん奇異の感にうたれたが、近づいてみると、古ぼけた蝦茶色の緞帳に金文字で「銀平曲馬団」と銘がうってあったのには、夢かとばかりに驚いた。銀平曲馬団といえば、これは亡き真一が一座していたという曲馬団と同じ名であった。
そこで妾は、小屋の前へ廻って中を覗いてみたが、生憎一座は休演していることが分った。横手の草地の上には顔色のよくない若衆がいて、前日までの長雨に大湿りの来た筵を何十枚となく乾し並べていたので、妾はそれに声をかけた。そしてこれが紛れもなく銀平の率いる曲馬団に相違ないことを知ったが、丁度幸いにもいま座長の銀平老人は、古幟で綴った継ぎはぎだらけの垂れ幕の向うに茶を飲んでいるということであったから、妾は思いきってズカズカと中に這入っていった。