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さんじゅうねんごのせかい
三十年後の世界
海野 十三
「少年読売」1948(昭和23)年3~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 68,140 字 · 137 页
正吉は、さっきから窓によって、はじめて見る月世界の景色に魂をうばわれている。
(ああ、ずいぶんすごいところだなあ。高い山、くらい影、木も草もない。これがほんとの死の世界だ。空はまっくらだ。あそこに輝いているのは太陽らしい。ここは雲の海だというが、水一滴ない。こんなところに一週間も暮したら、気がへんになって死にたくなるだろうなあ)
だが正吉は、やがてこの死の国のような月世界で、ふしぎな者にめぐりあい、一大事件の中にまきこまれるなどとは、夢にも思っていなかった。
空気服
「全員空気服をつけよ」
艇長からの命令が、各室へつたわった。
「さあ、空気服だ。かぶと虫の化けものになるんだ。やっかいだな」
「やっかいだって。でも、空気ににげられちまって死ぬよりはましだろう」
「もちろん死ぬよりはましさ。だが、空気服はきゅうくつだから、ぼくはきらいさ」
空気服というのは、身体のすっぽりはいる潜水服みたいなもので、あたまに潜水兜に似たかぶとをかぶる。しかし空気服についているかぶとは、前半分ほど透明だ。
空気服の中には地球の上と同じほどの濃さの空気がはいっている。そしてたえず空気をきれいにし、不足の酸素を補給する。