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みさきまちのはら
三崎町の原
岡本 綺堂
「不同調」1928(昭和3)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,292 字 · 5 页
その堤の松には首縊りの松などという忌な名の附いていたのもあった。野犬が巣を作っていて、しばしば往来の人を咬んだ。追い剥ぎも出た。明治二十四年二月、富士見町の玉子屋の小僧が懸取りに行った帰りに、ここで二人の賊に絞め殺された事件などは、新聞の三面記事として有名であった。
わたしは明治十八年から二十一年に至る四年間、即ちわたしが十四歳から十七歳に至るあいだ、毎月一度ずつは殆ど欠かさずに、この練兵場を通り抜けなければならなかった。その当時はもう練兵を止めてしまって、三菱に払い下げられたように聞いていたが、三菱の方でも直ぐにはそれを開こうともしないで、ただそのままの草原にしておいたので、普通にそれを三崎町の原と呼んでいた。わたしが毎月一度ずつ必ずその原を通り抜けたのは、本郷の春木座へゆくためであった。
春木座は今日の本郷座である。十八年の五月から大阪の鳥熊という男が、大阪から中通りの腕達者な俳優一座を連れて来て、値安興行をはじめた。土間は全部開放して大入場として、入場料は六銭というのである。しかも半札をくれるので、来月はその半札に三銭を添えて出せばいいのであるから、要するに金九銭を以て二度の芝居が観られるというわけである。