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さんがいばんれいとう
三界万霊塔
久生 十蘭
「富士」1949(昭和24)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,716 字 · 39 页
予想どおり、戦闘は朝の六時からはじまった。最初、四隻のラガーが単縦船形で入江へ入って行ったが、三十分ほどすると湾の奥で銃声がきこえ、二時間ほどつづいて平静にかえった。八時に第二船隊、十時にまた次の四隻が入り、そんなふうに四隻ずつ四回にわたって襲撃を行なったが、入江へ入った十六隻のラガーはとうとう一隻も出て来なかった。夜の八時ごろ、湾のほうで猛烈な火の手があがった。船長は、
「あいつらは証拠が残らないように船を焼いてしまうのが手なんだよ。今日の戦闘は、これでもう誰れも知らない、さ」
と冷静に註釈をつけておいて、のっそりと食堂へ入って行った。
威容を誇っていた二十六隻の船団は、母船とも十一隻になってしまったが、それから間もなく、船団の代表者の対島利吉が息子だという十二、三の子供を連れて遊びにきた。深尾たちの寛容を大いに徳としているらしく、紀州弁で長々と素朴な挨拶をしてから、こんどの出漁ははじめからケチがついてえらい失敗をしたが、奇妙に貝床だけはアタリがよかった。いまいい床についているが、なんだったらいっしょにかかってくれと意外なことをいい、一時間ほどいて帰って行った。