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さぶろうじい
三郎爺
宮本 百合子
「東京日日新聞」1918(大正7)1月5日~17日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,866 字 · 50 页
けれども、人に嫌われもするそれらの点を、その開墾地の旦那様と云われていた、山沢さんという人が、すっかり見込んでしまった。そして、家が出来上ったら、自分の家に使っていた、おまさという小綺麗な女を嫁にやるという約束をしたほどに目をかけたのである。
女房も定まり、家も出来て、彼が幸福の絶頂、まったく今から考えてみると、あのときほど、何事も順調に工合よく行ったことは、もう一生を通じてないと思われる時代にあったためか、その頃彼はよく狐に釣られ損ったり、百人の中で、見る者は一人いまいというような黒狐を見たりした。そしてそれらの事々が、彼のすぎさった黄金時代の記念として、朦朧(もうろう)とした記憶の中に、今なお燦然(さんぜん)として光っているのである。
黒狐の話は、別に大したことでもない。ただ同じ村の何とかいう百六つになっていた老人が十八のとき見たことがあるといった、真黒な、腹と尾の端だけ白い、恐ろしい古狐を、偶然田の中で見たというだけのことである。
皆が、嘘だ嘘だと云ったそうだが、今は主筋になった山沢さんの御隠居が、昔から記録本に、何百年立つとどんな毛色になるということが書いてある。