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さぶろうじい

三郎爺

宮本 百合子

「東京日日新聞」1918(大正7)1月5日~17日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,866 字 · 50 页

青空文庫

「あのときあ死神にとっ憑(つか)れはぐった」

とそのときを思い出すたびに彼は云う。

自分の心を解剖する力などはもちろんない彼は、その異常な昂奮を、ただその底無しの「魔所」にいる、何かに取っ憑かれたためだと今も思っているのである。

その話を聞くほどの者は皆やはり彼同様の解釈ほか与えないとみえて、自分の一つ話、それは死神に誘われることは、決してないものではないという彼の考えと、実際どこの湖や河にも、きっと一つは「魔所」のあるものだという伝説との、何より確な証拠として、話すのである。彼の黒狐と同様に、ただ奇態なこともあるものという言葉で総括されているのである。

当人の彼の方は、極々さっぱりと片づけているが、山沢さんはさすがに何か感じたらしい。

それから間もなく、始まった普請に就て、大工の宰領から、木材の選択、現場の見張りまで皆三郎に一任された。

九

そのときも山沢さんは例の通り、簡単に仕事の要領を話すと、あとは貴様のいいようにしろと云ったなり、どこの大工を使えとか、左官を使えなどということは、一言も云わなかったのだそうだ。

この山沢さんの度量が、「胆に銘じた」