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さぶろうじい
三郎爺
宮本 百合子
「東京日日新聞」1918(大正7)1月5日~17日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,866 字 · 50 页
手足が、不自由になり、思うように歩くことも出来なくなった彼の偉大な体は、遠くなった耳とともに、ますます彼の強情を強めた。
今こそこんなにビクラビクラしてはいてもという、反動的な、けれどもどうしてもなければならない自負が、彼の頭を一層高くさせる。
娘が十八になって、婿を取り、自分も、町の呉服屋の下働きをしていた、少し気の疎い女を後妻にして、彼は、貧しくしかし毅然と肩を聳(そび)やかせながら暮し始めたのである。
けれども、彼はその時分、よく行方不明になることがあった。三四日居処の分らないこともあり、ときには十日ぐらい、女房も知らないどこかで過して来る。
いろいろ取沙汰するものがあって、どれもそれがほんとだとは思われないが、博奕(ばくち)を打ったりしていたことだけは、間違いなかろう。
とにかく、そんなことで、幾分山沢さんの未亡人も、注意していたとき、彼は或るとき、突然告発された。
それをきいて騒いだのは、村の者ばかりではない。山沢さんの未亡人は真赤になって憤った。
女主人になったので、構えの中から、そんな不面目な者を出したと云われては、とうてい辛抱がならないと思ったのも、無理ではなかっただろう。