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さぶろうじい

三郎爺

宮本 百合子

「東京日日新聞」1918(大正7)1月5日~17日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,866 字 · 50 页

青空文庫

その原因が何であったのか、私ははっきり知らない。けれども、聞くところによれば、何でも、桑苗の取引きのことから、商売仇に訴えられたものらしい。

彼は十日ほど、暗い処に拘留されていた。「ところが、有難いことには、神様のお加護で、身が明るくなった」尋問されたとき彼は何日分かの日記を、すっかり「調べ」たのだそうである。

彼の「日記を調べた」という意味は幾日分かの日記を、すっかり暗誦したということらしい。自分でも、気味が悪いほど、何でもはっきり思い出せる。手紙の何行目に、こう書いてあるということまで、目に見える通り心に写ったのだそうである。

そのためだったのか、どうだか分らないが、彼は無罪で許された、そのとき、署長が、

「偉い目に会わせて、気の毒だった」と云って、非常に鄭重に扱ったということを話すと、彼の口辺には、今もそのときのままの微笑が浮ぶのである。

かように無罪で放免はされても、山沢さんの未亡人は、もう構えの中に置くことは出来ないと云った。

そんなことをする者を置いては、山沢の名に関わると云った。

これを聞いた、彼は、もう心を定めた。しないと現にお上でさえ認めてくれるものを、すると云って憤る人に彼は、説明したいとは思わなかった。