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さぶろうじい

三郎爺

宮本 百合子

「東京日日新聞」1918(大正7)1月5日~17日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,866 字 · 50 页

青空文庫

なぜそれがあったか分らないが、彼は自分の「守り刀」をあずけて置いた、ある士あがりの人の処へ行った。

そして何気なく刀のことを持ち出すと、彼の顔をちらりと見たその人は、軽い調子で、あんなものを、今頃何で思い出したのだ。もうとうの昔に、一円五十銭で売ってしまったよ、と云った。

それから急にいずまいを正して、三郎爺の顔をみつめがら、

「貴様の太い胆っ玉はどうした。山沢さんに済むまいぞ」

と、非常に温情の籠った、けれども厳とした声で云ったのだそうだ。

そのとき、彼は、旦那様がそう云っていなさるような心持がした。そして、急に涙がこぼれ出した。

もう死のうとは思わなくなったかわり、今まで、悄(しお)れきって来た心が、ピーンとするほどの新しい勇気が与えられた。

彼は心から頭を下げた。その人をとおして、彼は旦那様を、拝んだのである。

それから、御馳走になりそれとなく励まされた彼は、帰途に貰った金で、七面鳥を買って背負って来た。

彼の肩はまた、毅然として蛆虫奴等に向って聳やかされたのである。

七面鳥の卵を売ったり、下駄の歯入れをしたりしても、気儘な彼は、十分なだけ金が取れない。