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さんじゅうちゅうがえりのき
三重宙返りの記
海野 十三
「航空朝日」1941(昭和16)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,000 字 · 4 页
水平線が、きらきらと、交錯した水車の車軸のようにみえる。奇妙なことだ。
一等気持のわるかったのは、上昇反転であった。機はぐんぐん垂直に上昇していって、その頂上で、エンジンははたと停り、そして失速する。からだが、空中にぴたりと停った。まるで空中に腰掛があって、その上に、ふわりと胡坐をかいたようなふしぎな気持だ。そこまではいいが、とたんに、下腹を座席へ固くしめつけている筈の生命の帯皮が俄かに緩み、からだが逆さになって、その緩んだ帯皮から、だらりとぶらさがる。機を放れて、単身墜落の感じだ。はっと目を前方に向け、そこにあるべきはずの地平線を探るんだが、地平線は無く、顔のまん前にあったのは、何ともいえない気味の悪い青黒い壁のような大地であった。いつの間にか機首を下にした機は、次の瞬間、どどどっと奈落に顛落する……。
特殊飛行中、僕は特に頭を下げて、自分のからだに、今如何なる苦痛が懸っているかを特に注意してみた。急上昇のときだと思うが、胸と太ももとが、目に見えない魔物のために、今にも押し潰されそうに痛むのを発見して、ああこれこそ我慢づよいわが空の勇士が、絶えず相手に闘っているところの見えざる敵“慣性”だなと悟った。