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さんじゅうちゅうがえりのき
三重宙返りの記
海野 十三
「航空朝日」1941(昭和16)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,000 字 · 4 页
機が地上に下りると、僕は急に胸先がわるくなって、むかむかしてきた。生唾が、だらだらと出てきた。全身には、びっしょり汗をかいていた。だが僕は、大声で叫びたいほど愉快であった。
僕は、機上から下りて、校長閣下を始め御歴々に対し、初めて挙手の礼をもって挨拶をした。鼻汁がたれているのはわかっていたが、これを拭うすべをしらないほど平常の身嗜みに無関心だった。
西原少佐殿は、さっきとは打ってかわり、それからいくどもくりかえし、
「海野さん、まだ胸がわるいか。まだ、なおらんか」
と、電車の中までも、いたわってくれた。
はっきり書くと、その夜八時半ごろになって、この胸のわるさは、やっと癒った。と同時に、ここ数ヶ月の気分の悪さが、一ぺんに吹きとんでしまった感じがした。決行するとは全然予期しなかった特殊飛行は、僕の病気までを宙返らせた。最悪の状況下にある自分のからだを駆って、よくも宙返りに耐えたということは、私事ながら、実に大きな収穫であった。病気のときは、進んで特殊飛行を志願することにしたい。但しそう思ったのは、まるで生れかわったように元気になった翌日のことではあったが……。