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ふざいじぬし
不在地主
小林 多喜二
一~十一、十六「中央公論」1929(昭和4)年11月号、十二~十五(「戦い」の表題で。)「戦記」1929(昭和4)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,990 字 · 141 页
――然し、そのどの顔もたった一つのこと、「食えるか」「食えないか」で、引きつッていた。
「な、御内儀さん達よ、」
伴が一言ずつ顎をしゃくりしゃくり、何時もものを云うときの癖で、眼をつぶって――「聞いて貰おう。――この一年間、寝る眼も寝ず働いて、そのお蔭で、有難いお蔭で、今食うや食わずになり、――どうか生かしてだけは置いてくれッて頼んだ事だ。それをどうだ! この手紙を見てくれ。――馬鹿野郎だとか、気狂いだとか、監獄へブチ込んでやるぞ、とか――な、地主と小作は親と子だって云う。真赤な嘘だ。真赤な嘘でないか。これで親も子もあるもんか。」
「まア。」
「まア、まア!」
女達はそれだけしか云えない。
子供が急に大きな声を張りあげて泣き出した。いきなり平手で、馬鈴薯のような子供の頭をパシッパシッ殴った。「黙ッてれ、この餓鬼ッ!」――母親がムキになって怒っている。
佐々爺と武田が「返事」のことで、ひょッこり顔を出した。佐々爺は東京新聞を振り上げながら、「どうしたんだ? どうしたんだ? ええ? どうした?」
と、カスカスな声を絞り上げた。
「俺の命でもとる気か?」