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ふざいじぬし

不在地主

小林 多喜二

一~十一、十六「中央公論」1929(昭和4)年11月号、十二~十五(「戦い」の表題で。)「戦記」1929(昭和4)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,990 字 · 141 页

青空文庫

」――所謂社会的な地位のある人は、案外表へ出ることを嫌う。そこを衝いてみる必要がある――阿部も伴もその事を考えていた。

差押えを受けてから、小作人もちがってきた。「モウ親も子もあるもんか。」――一番おとなしい小作さえ口に出して云った。

――小作は毎日毎日の飯米にさえ困った。納屋には米俵がつまさっている。何十俵も積まさっている。何十俵という米俵が積まさっていて、そして飯が食えなかった。

「少しでも手をつけると罪人だぞ。」

巡査が時々廻ってきた。まるで岸野から言伝って来たようだった。――小作人は「罪人」と云われると、背中がゾッとした。

H町からの帰り、母親と由三が薄暗くなったのを幸いに、所々の他人の畑から芋や唐黍を盗んできた。――前掛けの端を離すと、芋、唐黍、大根が一度に板の間にゴトンゴトンと落ちた。

「兄ちゃさも、恵にも云うんでねえど!」

家のなかに上ると、母親はさすがにグッたりした。――とうとう泥棒をしてしまった、と思った。

「……んでも泥棒させるのは、岸野さんだ。……ええワ、ええワ!――何アに……。」

横坐りになると、そのまま何時迄もボンヤリした。

「母、俺ら学校の帰り何時でも取ってくるか?――由何んぼでも、見付からないように盗れるワ。