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ふざいじぬし
不在地主
小林 多喜二
一~十一、十六「中央公論」1929(昭和4)年11月号、十二~十五(「戦い」の表題で。)「戦記」1929(昭和4)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,990 字 · 141 页
そして鷹揚にうなずいて見せた。持っていた穂を田の中に投げると、小さい波紋の輪が稲の茎に切られながら、重なり合って広がって行った。
「ね、お百姓さんって、何時でもこの水の中に入って働くのねえ!」
「そうで御座います、お嬢さん。」
二つ三つ田を越したところで、丁度同じ年位の娘が頬かぶりの上に笠をかぶり、「もんぺい」をはいて、膝ッ切り埋って働いているのが見えた。顔に泥がハジけると、そのまま袖でぬぐっている。
「あれじゃ足も手も――身体も大変ね!」
「えええ、その何んでもないんで御座います。」――追従笑いをした。
「あたし学校の参考に稲を二、三本戴いて行きたいんですけれど……」
女房達が争って稲を取りにかかった。――吉本管理人は、これアうまい、と思った。
「矢張り何んてたって、大したもんだ。」
女房達は小腰をかがめながら、稲を差出した。令嬢は、「有難う。」と云いながら、フト差出された女達の手を見た。手? だが、それは手だろうか!――令嬢は「ま!」と云って、思わず手の甲で口を抑えた。
一通り田畑を見てしまうと、「いとも」満足の態で、一行は管理人の家へ引き上げた。
「伴さん」