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ふざいじぬし

不在地主

小林 多喜二

一~十一、十六「中央公論」1929(昭和4)年11月号、十二~十五(「戦い」の表題で。)「戦記」1929(昭和4)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,990 字 · 141 页

青空文庫

病人を無理に立たせて、両方から肩を組み、中央にして歩かせた。が、他愛なく身体がブラ下ってしまった。頭に力がなく、歩く度にグラグラッと揺れた。

皆はゾロゾロ堤を引き上げた。雑木林の中から、その時だった、突如カン声が上った。帽子の色のちがった別な一隊が、附剣をして「ワアッ、ワァッ!」と叫びながら、さっきの兵隊の後横へ肉迫していた。――不意を喰ってしまった。立ち直る暇もなく、そのまま隊伍を潰して、横へそれると、実りかけている田の中へ、ドタドタと入り込んでしまった。見ている間に、靴の下に稲が踏みにじられてしまった。

「あ、あッ、あ――あッ、あッ!」

田の向うに一かたまりにかたまって見ていた小作人が、手を振りながら夢中に駈けて来るのが見えた。健達も思わず走った。――百姓達には、それは自分の子供の手足を眼の前で、ねじり取られるそのままの酷たらしさだった。

「何するだ!」

「何するだ! 稲※(感嘆符二つ、1-8-75) 稲※(感嘆符二つ、1-8-75)」

然し兵隊のワアッ、ワアッという声に、それはモミ潰されてしまった。士官は分っていて、号令をやめなかった。――もう百姓は棒杭のように、つッ立ってしまうよりない!