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ふざいじぬし

不在地主

小林 多喜二

一~十一、十六「中央公論」1929(昭和4)年11月号、十二~十五(「戦い」の表題で。)「戦記」1929(昭和4)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,990 字 · 141 页

青空文庫

ようやく「休戦ラッパ」が鳴った。

兵卒達はそれでも稲を踏まないように、跳ね跳ね田から出てきた。

士官は汗をふきながら、プリプリして、

「後で主計が廻ってくるんだから、その時申告すれアいいんだ。」

それは分っている! 然し損害を受けただけを申告すれば、その度に「これを種にして儲けやがるんだろう。」「日本国民として、この位の損害をワザワザ申告するなんてあるか。」と云われる。「帝国軍人のためだと云って、申告しない百姓さえあるんだぞ。」そんな事も云う。――貧乏な、人の好い小作人はどうすればいいか?――小作料を納める時になれば、地主はそんなことを考顧さえもしてくれない。

兵士達はそれ等の話を気の毒そうに、離れてきいていた。――矢張り小作人の伜達がいるんだろう、健はそのことを考えていた。

田を踏みにじられた隣りの農場の小作が、壊れた瀬戸物でもつなぎ合わせるように、田の中に入って行って、倒れた稲を起しにかかった。――健にはそれは見ていられなかった。

「下稽古かも知れないど」

兵隊の泊った朝、由三は誰よりも先きに起きた。――吃驚したようにパッチリ眼を開けて、家の中をクルックルッと見廻わすと、ムックリ起き上ってしまった。